
「レントゲン写真上で歯の根の先に黒い影があります」、「根尖病変があるので根管治療をしましょう」、このようなことを歯科医院で言われたことはありませんか? 今回は、歯の根の病気“根尖病変”とはいったい何なのか、発生のメカニズム、放置して自然に治ることはあるのか、等について解説します。
歯の根の病気“根尖病変”とは?
レントゲン写真上で歯の根っこ(歯根といいます)の周囲にできる黒い影を根尖病変といいます。根尖病巣と呼ばれることもありますが、レントゲン写真上での影だけでは“病巣”と診断できないため、“根尖病変”が正しい呼び方になります。
レントゲン写真は、骨や歯のような硬い組織は白く映り、歯の神経やむし歯で溶かされた歯などの柔らかい組織は黒く映りきます。つまり、レントゲン写真で黒く映る根尖病変が認められたということは、歯根周囲の骨が溶けていることを意味します。
根尖病変は、写真①のように歯根の先端を囲うような黒い影として映ることが多いですが、写真②のように歯根のどちらかに偏った黒い影として映ることもあります。
レントゲン写真を見慣れていない場合、どこに根尖病変があるかを見極めることは簡単ではありませんが、健康な歯は歯根膜腔と呼ばれる黒く細い線が歯根の周囲を覆っているので、黒く細い線が歯根を囲んでいるかどうかを見ると根尖病変の有無を把握しやすいかもしれません。(写真②)
根尖病変の原因は細菌!
では根尖病変が発生する原因は何でしょうか。これはズバリ細菌です。細菌が歯の中(歯の神経)に侵入することによって根尖病変が生じることがkakehashi先生らの研究により明らかになっています。(参考文献①)
kakehashi先生らの研究について簡単に紹介すると、彼らは口腔内に細菌のいるラット(通常飼育ラット)と、無菌状態で育てられた口腔内に細菌のいないラット(無菌飼育ラット)の2種類のラットを用意し、それぞれの歯に神経に到達する穴をドリルであけ放置しました。そうすると、通常飼育ラットでは時間の経過とともに歯の神経の壊死や根尖病変が生じたのに対して、無菌飼育では神経が健康な状態を維持する、ということが明らかになり、この結果から歯の中に細菌が侵入することにより根尖病変が起こることが分かりました。
根尖病変そのものは体にとって有害ではない!
ここまで、歯の中に細菌が侵入することにより根尖病変が起こると述べてきました。このように聞くと、【根尖病変=悪いもの】と感じるかもしれませんが、実は根尖病変は生体の防御機構の結果として生じたものであり、根尖病変そのものが周囲組織に対して悪影響を与えるわけではありません。
もう少し具体的に説明していきます。まず、深い虫歯や不適切な根管治療によって歯の神経に細菌が感染したとします。通常、私たちの体は十分な免疫機構が備わっていますから、多少の細菌が体に侵入ても大きな問題はありません。血液中に含まれる様々な免疫系の細胞が、怪我した部位に侵入した細菌を取り除くからです。(転んで手を怪我しても、怪我した部分が細菌感染して骨が溶けるということはまず起こりませんよね)
しかし歯の神経は血流が非常に乏しい組織であり、細菌に対する抵抗性が非常に弱いという特徴があります。そのため、少しの量の細菌でも歯髄は細菌感染し壊死してしまいます。そして、歯髄の壊死が歯根の先端まで広がると、細菌や細菌の生み出す汚染物質が歯根の先端から歯根の外側に放出されます。
歯根の外側は、歯根の中とは異なり免疫機構が働くため、好中球やマクロファージといった免疫系の細胞や、破骨細胞といった骨を吸収する細胞の作用が活性化し、周囲の骨が吸収されてしまい根尖病変が発生します。。
つまり、根尖病変は歯の中(根管内)や歯根表面の細菌、それらの生成物に対する免疫反応の結果として生じたものであり、根尖病変そのものが悪さをするわけではありません。
根尖病変は放置しておいて治るのか?必ず治療しなければいけないのか?
歯の中の細菌が原因で発生した根尖病変は、治療せずに放置しておいたらどうなるのでしょう。放置していたら自然に治るのではないか?と思われるかもしれませんが、残念ながら根管治療をしない限り、根尖病変が自然に治るということはほぼありません。
その理由は、先ほども説明したように歯の中は血流が乏しく免疫機構が働きにくいためです。歯の神経が一度細菌感染し根尖病変ができると、風邪のように放置して治るというようなこととはなく、根管治療をしない限り、現状維持もしくは悪化してしまいます。
根尖病変が悪化しているケースでは根管治療が推奨されますが、状況によっては治療せずに経過観察した方が良いケースもあります。歯科医院で根尖病変があると指摘され、治療した方が良いかどうか悩んでいる方は、 【歯の根の病気、根管治療せずに放置するとどうなるか?悪化する確率を具体的に解説】で詳しく解説していますので、そちらも是非ご一読ください。
今回は歯の根の病気、根尖病変について解説しました。
治療介入するべき根尖病変か、経過観察するべき根尖病変かの判断を患者さん自身で行うことは困難です。根尖病変を指摘され治療で悩んでおられる方は、根管治療に精通した歯科医師の診察を受けられることをお勧めします。
本記事は、奈良県大和高田市にある歯医者(歯科医院)、斉藤歯科クリニックの齊藤伸和が監修・執筆しています。何か不明な点がありましたら、無料相談も受け付けておりますので、是非お気軽にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献
①the EFFECTS OF SURGICAL EXPOSURES OF DENTAL PULPS IN GERM-FREE AND CONVENTIONAL LABORATORY RATS,S KAKEHASHI et al. Oral Surg Oral Med Oral Pathol (1965)