
根管治療をすると歯が弱くなるは嘘!?歯が割れやすくなる本当の理由を歯科医師が解説
「根管治療をすると歯が弱くなるって聞いて不安…」
「枯れ木みたいになるって本当?」
患者さんからこのようなご質問を毎週のようにいただきます。
最初に結論をお伝えすると、根管治療そのものでは歯の強度はほとんど変わりません。
ではなぜ“根管治療をした歯は割れやすい”と言われるのでしょうか? その理由は主に次の2つです。
① 大きな虫歯で歯質が減り、構造的に弱くなっている
② 神経がなくなることで噛む力の感覚が鈍り、強い力が加わりやすい
この記事では、根管治療をした歯が本当に割れやすくなる理由について、分かりやすく解説します。
“根管治療すると歯が枯れ木のようになる”は誤解
「神経を取ると水分や栄養が届かなくなり、歯が枯れ木のようにもろくなる」 このように説明されることがありますが、結論から言うと科学的には正しくありません。
・根管治療しても水分量はほぼ変わらない
根管治療した歯は本当に乾燥してしまうのか?という疑問を調べた論文があります。結果はなんと、
生活歯と根管治療歯の水分量の差はわずか2%程度(参考文献①)
生木と枯れ木では水分量が数十%以上も異なるため、根管治療した歯が「枯れ木のようになる」という表現は科学的には誤りです。

歯は神経から栄養供給を受けていない
歯ぐきや骨は血流から栄養を受け、新陳代謝を行いますが、エナメル質や象牙質などの歯の硬組織は完成すると新陳代謝をほぼ行いません。
そのため、神経を取っても歯の状態や強度が大きく変わることはありません。
なお、歯の神経と象牙質の間には象牙芽細胞という細胞がいます。この象牙芽細胞は象牙質を新たに作り出す作用があり、この働きにより経年的に象牙質は分厚くなる傾向にあります。(このように作り出された象牙質を二次象牙質や三次象牙質といいます)
根管治療を行い歯の神経を除去すると、この象牙芽細胞もいなくなってしまうので、二次象牙質や三次象牙質が形成されることはありません。構造力学的には二次象牙質や三次象牙質が形成され象牙質の厚みが増すことにより、歯が割れにくくなる可能性はありますが、そのような結果を直接的に立証するような研究結果はありません。
根管治療しても強度はほぼ変わらない(実験で証明)
Sedgley & Messer らの研究では、根管治療歯と生活歯の強度を比較しました。(参考文献②)
その結果、両者の強度にほとんど差はありませんでした。 つまり、根管治療をしたからといって歯がもろくなるわけではありません。

根管治療をした歯が割れやすくなる本当の理由
根管治療を行ったとしても、水分量や歯の構成要素・強度がほぼ変わらないのであれば、なぜ根管治療をした歯は割れやすいのでしょうか?
根管治療が必要な歯は、構造的に弱くなっている
Reeh and Messerの研究では、根管治療を行ったとしても歯の剛性はほとんど低下せずに、その後の歯の形成により歯の剛性が大きく低下することを明らかにしました。(参考文献②)
つまり、根管治療そのもので歯が割れやすくなるわけではなく、根管治療が必要になるような大きな虫歯になり健康な歯が大きく減少した時点で、すでに歯は割れやすい状況になっているのです。

根管治療をした歯は、感覚が鈍るので強い力が加わりやすい
神経を取ると、歯に加わる圧の感覚が鈍くなることが研究で示されています。(参考文献③)
さらに Randow らの研究では、生活歯の約2倍の力が加わらないと痛みとして感じにくい(参考文献④)ことが報告されています。
そのため、気づかないうちに強い力を加えてしまい、破折のリスクが高まるのです。
結論:「神経の有無」よりも「どれだけ歯質を残せるか」 が決定的に重要!!
根管治療した歯=割れやすい、という内容を患者さんに分かりやすくイメージしてもらうため、「根管治療(歯の根っこの治療)をした歯は、枯れ木のように弱くなるので割れやすくなります」という表現が良く用いられます。
しかし、歯が割れやすい原因は、根管治療そのものではありません。
・虫歯でどれだけ歯質が失われたか
・歯の削り方や被せ物の質
・噛む力のコントロール
これらが歯の寿命を左右します。
つまり、根管治療後の歯を長持ちさせたい場合、「歯質をいかに残すか」が最も重要なのです。(根管治療の質は言わずもがな)
根管治療後の歯を長持ちさせるには?については
・根管治療(歯の根っこの治療)で後悔しないために。根管治療の失敗と成功を左右するものとは!?
・根管治療の名医とは?失敗しない治療法と選び方を歯科医が解説
でも解説していますので合わせてご覧ください。
今回も最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
本記事は、奈良県大和高田市にある歯医者(歯科医院)、斉藤歯科クリニックの齊藤伸和(日本臨床歯周病学会認定医・日本歯内療法学会会員)が監修・執筆しています。何か不明な点がありましたら、無料相談も受け付けておりますので、是非お気軽にご相談ください。
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参考文献一覧(References)
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Papa J, Cain C, Messer HH. Moisture content of vital vs endodontically treated teeth. Endod Dent Traumatol. 1994;10(2):91–93. doi:10.1111/j.1600-9657.1994.tb00067.x. PMID:8062814.
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Sedgley CM, Messer HH. Are endodontically treated teeth more brittle? J Endod. 1992;18(7):332–335. doi:10.1016/S0099-2399(06)80483-8. PMID:1402595.
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Loewenstein WR, Rathkamp R. A study on the pressoreceptive sensibility of the tooth. J Dent Res. 1955;34(2):287–294. doi:10.1177/00220345550340021701. PMID:14367626.
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Randow K, Glantz PO. On cantilever loading of vital and non-vital teeth. An experimental clinical study. Acta Odontol Scand. 1986;44(5):271–277. doi:10.3109/00016358609004733. PMID:3544657.



