「根管治療をしたけど治らなかった‥‥先生の腕が下手だったのかも」「○○先生は、腕が良いから根管治療がすぐに終わる」このような話を聞かれたことはないでしょうか?
お口の中、なかでも“根管”といわれる歯の根っこの中は、患者様自身で確認することができないため、患者さん自身が歯科医師の“根管治療の腕の良し悪し“を判断することは困難です。
そのため、歯科医師の立場から見ると素晴らしい根管治療がされているにもかかわらず、患者様にその良さが伝わっていない場合や、その逆に歯科医師的にチョットこれは‥と思うような不十分な根管治療でも、「早く治療が終わって良かった!」と患者様が満足しているケースがあるのが現状です。
そこで今回は、根管治療の腕が良いとはどのような歯科医師を指すのか?、について解説します。
「根管治療がすぐに終わる=腕が良い」ではない。
根管治療は〖根管治療で後悔しないために。根管治療の成功と失敗を左右するものとは?〗で解説しているように、①根管形成、② 根管洗浄、③根管貼薬、④根管充填・コア築造流れで治療が行われます。
根管は、歯の神経が通っている直径1㎜以下の非常に細い管であり、それらを適切に治療するためには、ある程度の時間が必要とされます。「根管治療の時間は何分ぐらいが適正か?」という疑問に対しては、対象となる歯の状況(根管の数、太さ・長さ・歯根の曲がり具合、以前に行われた根管治療の質、根管からの出血や排膿の有無、被せ物の状態等)が様々なため、根管治療の適正な時間を提示することは困難です。
ただ、 “感染根管治療”といわれる以前に根管治療が行われた歯に対して行われる2回目以降の根管治療では、古い材料の除去や根管内に侵入した細菌を殺菌するステップに多くの時間が必要とされます。そのため、あまりに早く根管治療が終わる場合では、根管内の細菌の除去が不十分である可能性があります。(例:1回30分の処置で根管治療がすべて終了)
〖「根管治療がいつまでも終わらない」はなぜ起こるのか〗や〖根管治療 、薬の交換は何回ぐらいするのが普通?〗で解説しているように、治療の回数や時間が長ければ長いほど良いわけではありませんが、あまりに短すぎるのは適切に根管治療が行われていない可能性があります。
根管治療の腕が良い=歯を削りすぎずに根管内の細菌除去ができる
では“根管治療が上手な歯医者”とは、一体どのような先生を指すのでしょうか。その答えは、ずばり『歯を過剰に削りすぎずに、根管内の細菌量を十分に減少させられる先生』です。
根管治療が成功するかどうかは、根管内の細菌をいかに減少させるかにかかっています。(詳しくは歯の根の治療(根管治療)で後悔しないために。根管治療の失敗と成功を左右するものとは!?で解説しています』
細菌を減少させる方法の一つとてして、細菌が付着した歯の内部を削り取る方法があり、この処置を根管拡大といいます。大きく根管拡大する、つまり歯の削る量を増やすことにより、より多くの細菌が除去できることが報告されていますが(参考文献①)、その一方で、歯を削りすぎることによって歯の強度が低下し、将来的に歯の破折が生じる可能性が高くなるという欠点もあります。
根管治療の最終的な目的は、根管治療が行われた歯を健康な状態で長く使うことであり、そのためには歯を過剰に削りすぎずに、根管内の細菌量を十分に減少させることが必要となり、それを達成できる歯科医師こそが“根管治療が上手な先生”となります。
根管治療を行う歯科医師によって治療結果が変わる可能性がある。
歯を過剰に削らない根管治療を行う上で、歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)やラバーダム、歯科用CT、ニッケルチタンファイルといった機器を使用することはとても重要です。しかしこれらの器具を使用すれば全ての歯科医師が同様の治療結果を得ることができるかというと決してそうではなく、歯科医師一人ひとりの知識や技術、経験により治療結果が変わってきます。
実際に、研修医と専門医の根管治療の結果を比較した2024年の研究では、フレアアップといわれる根管治療後の強い痛みや腫れが出る確率が、専門医に比べて研修医では高かったことが報告されています。(参考文献②) 同じ論文では専門医グループの方がMB2根管といわれる見逃されやすい根管を発見する確率が高かったことも報告されており、見逃す根管が少ないということは、それだけ細菌の取り残しが少ないということを意味するため、これらの違いが治療結果に影響を与える可能性は十分に考えられます。別の研究では根管治療の成功率は専門医で84.8%、一般開業医では65.7%という結果が報告されていることからも、根管治療に精通した歯科医師の治療を受けることがより良い治療結果を得ることにつながるといえるでしょう。
今回も最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
本記事は、奈良県大和高田市にある歯医者(歯科医院)、斉藤歯科クリニックの齊藤伸和が監修・執筆しています。何か不明な点がありましたら、無料相談も受け付けておりますので、是非お気軽にご相談ください。
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参考文献
①Reduction of intracanal bacteria using nickel-titanium rotary instrumentation and various medications.G B Shuping ら.J Endod. 2000
②Influence of operator’s experience on complications of root canal treatment using contemporary techniques: a retrospective study. Tongfei Shao ら,BMC Oral Health. 2024
③Outcome of primary root canal treatment: systematic review of the literature – part 1. Effects of study characteristics on probability of success. Y-L Ngら.Int Endod J .2007