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「インプラント周囲が腫れている・嫌なにおいがする」「インプラントから血が出る」「インプラントの不調を訴えたが、様子を見ましょうと言われ、一向に改善しない」 このようなインプラントのお悩みを抱えて来院される患者さんは少なくありません。このページを読まれている方のなかにも、現在ご自身のインプラントがインプラント周囲炎になっており、治療により治すことができるか不安に感じられている方もおられるのではないでしょうか。
本ページではインプラント周囲炎の治療法と治療の成功率について解説します。。インプラント周囲炎はしっかり治療すれば治すことのできる病気ですので、是非最後まで読んでいただければと思います。
インプラント周囲炎について
インプラント周囲の骨が溶ける病気がインプラント周囲炎
インプラント周囲炎とは、『インプラントを支える骨が溶ける病気』です。
健康なインプラントでは、下図のようにフィクスチャーと呼ばれるインプラントの本体は骨に囲まれており、周囲の歯ぐきには炎症はありません。
しかし、歯磨きが十分にできていないケースや、不適切な形態の被せ物が装着されているケースなどでは、インプラント周囲にプラーク(細菌)が付着してしまい、その結果インプラント周囲の歯ぐきに炎症が起こります。この状態をインプラント周囲粘膜炎といいます。
インプラント周囲粘膜炎の段階ではインプラントを支える骨に問題は起こっていませんが、インプラント周囲粘膜炎を治療せず更に病状が進行すると、インプラントを支える骨まで炎症が広がり、骨が溶けてしまいます。このインプラント周囲の骨が溶ける状況まで進行してしまった病気がインプラント周囲炎です。
インプラント周囲炎を治療せずに放置すると、インプラントを支える骨が徐々に吸収されてしまい、最終的にはインプラントが抜け落ちてしまうためなるべく早く治療介入する必要があります。
インプラント周囲炎は珍しい病気ではない
患者さんに入れられたインプラントのうち、どの程度の割合でインプラント周囲炎になってしまうか(罹患率) については多くの研究が行われており、研究によってバラツキはありますが、概ねインプラント10本あたり約1本、インプラントを入れた患者さん10人当たり約2人がインプラント周囲炎になると報告されています。(一人当たり2本以上インプラントを入れている患者さんがいるため、それぞれの割合が異なります。)
インプラント10本あたり約1本(10%)という確率は高いとは言えませんが、非常に珍しい病気でもありません。詳細は後ほど述べますが、インプラント周囲炎は進行するほど治療の成功率は下がるため、インプラントを入れられた場合は、インプラント周囲炎になっていないかを定期的なメインテナンスでしっかり確認する必要があります。(下図の数値は参考文献①より)
インプラント周囲炎の治療について
治療法
ここからはインプラント周囲炎の治療法について解説します。
先ほど説明したように、インプラントの周囲にプラークが付着すると、まずはインプラント周囲粘膜炎になり、更に進行するとインプラント周囲炎になります。
炎症が粘膜に限局しているインプラント周囲粘膜炎の段階では、患者さんの普段の歯磨きレベルの向上と歯科医院での専門的な器具を使用した非外科的な(歯ぐきを切開するなどの外科的な方法でない)清掃で、ほどんどのケースを治すことができます。
その一方、インプラントを支える骨が溶け、フィクスチャー(インプラント本体)が骨から露出しているインプラント周囲炎では、非外科的な清掃方法ではフィクスチャーのネジ山の間のプラークを十分に清掃できません。そのためインプラント周囲炎の治療では、歯ぐきを切開しインプラント表面の清掃を行う外科的な処置がほぼ全てのケースで必要になります。
インプラント周囲炎治療の成功率に影響を与える因子について
世界的な治療成功率は30%~60%
ここからはインプラント周囲炎治療の成功率について解説します。下の表は、おもにヨーロッパで行われたインプラント周囲炎治療の成功率を示した表です。術式や成功基準、フォローアップ期間に違いはありますが概ね30%~60%という成功率が示されています。つまり治療しても約2本に1本しか治らないということであり、インプラント周囲炎を治すことの難しさが分かるかと思います。しかし、インプラントの種類や重症度によっては、この数値より高い成功率が期待できる場合がありますし、またその逆もあります。そこで以下では、インプラント周囲炎治療の成功率に影響を与える要素について紹介します。
インプラント周囲炎の重症度
インプラント周囲炎はインプラント周囲の骨が吸収する病気であり、病状が進行するにつれ骨の吸収量が多くなります。そして、骨の吸収量が多くなる、つまりインプラント周囲炎が重度になるにつれて治療の成功率が下がるという研究結果が報告されています。(参考文献②)
インプラントの種類
インプラントの種類によってインプラント周囲炎治療の成功率が変わることが報告されています。現在の市場では100種類を超えるインプラントが販売されており、それぞれ形態や表面性状が微妙に異なります。これらの違いが治療の成功率に影響を与えることが知られており、2017年の研究では、同じ清掃方法でインプラント周囲炎を治療したにも関わらず、インプラントの種類によって成功率が低いもので16%、高いもので85%という大きな差があったことが報告されています。(参考文献③)これらのことから、インプラント周囲炎を治療する際は、使用されているインプラントの種類も治療の意思決定に影響を与える要素の一つとなります。
また、インプラント治療を受けられる際には、インプラント周囲炎になってしまった場合に治しやすいインプラントを使用することも、将来のリスクを下げるうえで重要だと私は考えています。なお当院ではインプラント周囲炎になった際のことも考慮し、インプラント周囲炎治療の成功率が高い下図のD社(ストローマン社)のインプラントのみを使用しています。
術者の経験値
インプラント周囲炎治療は、処置を行う術者の経験・技量によって治療の成功率が変わることが報告されています。そのため、インプラント周囲炎になり治療が必要な場合は、治療経験が豊富な歯科医師の治療を受けられることをお勧めします。
当院でのインプラント周囲炎治療の成功率
当院では、豊富な臨床経験をもつ歯科医師が、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)やインプラント周囲炎治療に特化した様々な器具を使用しインプラント周囲炎治療を行っております。世界的な治療成功率が30%~60%であるなか、当院の歯科医師が行った方法での治療成績は72.7%の成功率(2020年1月~2023年6月の期間を対象に調査) となっています。他院で抜かなくてはいけないと言われたインプラントも抜かずに保存できる可能性がありますので、是非お気軽にご相談ください。
↑インプラント周囲炎治療の症例(オペ動画)はこちらから
まとめ
長期間にわたってインプラントを長期にわたって健康に維持するうえで、インプラント周囲炎を予防することが最も大事です。しかし不幸にしてインプラント周囲炎になってしまった場合には、治療の成功率を上げるためにもなるべく早く治療介入する必要があります。ただ、インプラインプラント周囲炎という病気はその歴史が浅く (インプラントという治療法が発明される前は、インプラント周囲炎という病気は存在しなかったため)、十分な知識と技術、経験を持ち合わせた歯科医師がまだまだ少ないのも現実です。そのため、自分の医院で入れたインプラントがインプラント周囲炎になったとしても、どのように対応してよいかが分からず、治療されずに放置されているケースも少なくありません。
そのためインプラントに不調を感じられた場合、まずはかかりつけの先生に相談し、しっかりとした検査と納得する説明がなかった場合には、専門的な知識を持った歯科医師のセカンドオピニオンを受けられることを推奨します。
インプラント周囲炎は正しく診査・診断・治療を行えば治すことのできる病気です。本記事が、インプラント周囲炎で悩まれている患者さんにとって少しでも役立つことを願っています。
本日も最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
本記事は、奈良県大和高田市にある歯医者(歯科医院)、斉藤歯科クリニックの齊藤伸和が監修・執筆しています。何か不明な点がありましたら、無料相談も受け付けておりますので、是非お気軽にご相談ください。
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参考文献
① Derks J , et al.Effectiveness of Implant Therapy Analyzed in a Swedish Population: Prevalence of Peri-implantitis.J Dent Res. 2016 Jan;95(1):43-9
②Serino G, et al. Outcome of surgical treatment of peri-implantitis: results from a 2-year prospective clinical study in humans. Clin Oral Implants Res. 2011; 22(11): 1214-1220.
③Carcuac O, , et. Surgical treatment of peri-implantitis: 3-year results from a randomized controlled clinical trial. J Clin Periodontol. 2017; 44(12): 1294-1303.
④de Waal YC.Implant decontamination with 2% chlorhexidine during surgical peri-implantitis treatment: a randomized, double-blind, controlled trial. Clin Oral Implants Res. 2015 Sep;26(9).