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「根管治療が失敗した‥」 そもそも根管治療の成功・失敗の定義とは?
こんにちは。奈良県大和高田市の歯医者(歯科医院)、斉藤歯科クリニックの齊藤伸和です。
「歯の根の治療が失敗した」「根管治療をしたけれど治らなかった」という悩みを抱えて来院される方は少なくありません。このような患者様の多くは、痛みや歯茎の腫れが治らないことを主訴とされていることが多いですが、そもそも“根管治療が成功した・失敗した”とはどのような基準をもって判断されるのでしょうか。
今回は、根管治療(歯の根っこの治療)の成功・失敗の判断基準について解説していきます。
根管治療の成功・失敗の判断基準は、臨床症状とレントゲン画像から判断する
まず結論から述べると、歯科医師は“硬いものを噛んで歯に圧力が加わった時や、歯をコンコン叩いた際に患者様がどう感じるか(臨床症状)”と “レントゲン画像上での歯や骨の状態(X線画像所見)”の2つの検査結果から、根管治療が成功したか失敗したかを判断します。
臨床症状:健康な歯の場合、硬いものを噛む、歯をコンコン叩くといった刺激が加わったとしても、特に違和感や痛みは感じません。その一方、歯の根の病気が治っていないときや、治りかけているものの完全には治癒していない場合では、このような刺激に対して敏感に反応することがあります。
X線画像所見:歯の根っこ(歯根)の病気を治療せずに放置していると、歯根の先端の骨が溶け、レントゲン画像上で黒く映るようになります。このレントゲン画像上の黒い影を根尖病変といいます。また、歯根の周囲には歯根膜という薄い膜があり、この膜は健康な状態では非常に薄いため、レントゲン画像上ではとても細い黒い線として映ります。しかし炎症があるとこの歯根膜の厚みが増し、レントゲン上で太い黒い線として映ります。
つまり、レントゲン画像上で歯の根の先に黒い影がない(根尖病変が無い)、かつ歯根膜が黒く細い線として映っている(歯根膜の拡大像がない)状態が理想的な状態と言えます。
歯科医師によって成功・失敗の意見が割れることがある
このような明確な判断基準があるのであれば、歯科医師によって成功と失敗の意見が分かれることは無いと思われるかもしれませんが、実はそうではありません。
同じ症例の治療結果でも、歯科医師Aは「治療は成功した」と判断する一方、歯科医師Bは「この治療は失敗している」と判断することは珍しくありません。
このような歯科医師による意見の食い違いはなぜ起こるのでしょうか。その答えは、根管治療の成功・失敗の判断基準がいくつかある、より詳しくいうと“厳しい成功基準”と緩い成功基準“があり、歯科医師によって用いる判断基準が違うから、ということになります。
厳しい成功基準”と緩い成功基準
根管治療の成功基準は臨床所見とレントゲン画像所見をもとに判断すると上記で述べましたが、厳しい成功基準(Strindbergの成功基準 1956年)では下図に示すように臨床症状やレントゲン画像所見が全て正常で成功、もし条件のうち1つでも満たしていないものがあると失敗という非常に厳格なものでした。
しかし、このStrindbergの成功基準は日々の診療でこの基準を用いるにはあまりに条件が厳しすぎるのが問題でした。実際に下の症例をStrindbergの成功基準に当てはめてみると、治療前に比べて治療後は臨床症状がなくなり、レントゲン画像上の黒い影(根尖病変)も大幅に改善し、患者様は何不自由なく生活されていますが、完全に黒い影がなくなってはいないので治療は失敗と判断されてしまいます。
このようにStrindbergの成功基準は条件があまりに厳しすぎ、日常臨床でこの成功基準を用いると多くの症例が失敗と判断されてしまいます。治療が失敗ということは更なる治療介入が必要ということになりますから、本来は追加の治療が必要ないような歯に対しても過剰な診療を行ってしまう危険性があります。
そこで、より実際の日常臨床にマッチした緩い成功基準といわれる基準がいくつか示されており、代表的なものとしてPAIスコア(1987年)やFreidman and Morの成功基準(2004年)があります。
これらの基準は、すべての条件が満たされていなければ成功とみなされなかったStrindbergの成功基準に比べて、Freidman and Morの成功基準は「ある程度治ってきている傾向が認められた、日常生活で問題なく使用できているのであれば治療成功にしましょう」というより臨床的な診断基準となっています。
まとめ
今回は、根管治療の成功基準につて解説しました。
紹介した成功基準のほかにも様々な成功基準があり、どの基準を用いるかは歯科医師によって異なります。そのため、同じ症例の治療結果に対しても歯科医師によって治療成功・失敗の意見が分かれることがあるということがあります。
他院で失敗と言われたケースでも、しっかりと検査すると実は成功と判断してよい状況だったということもありますので、「根管治療が失敗しているから歯を抜かなければいけない」と言われて悩んでいる患者様がおられましたら、根管治療に精通している歯科医師の診察を一度受けられることをお勧めします。
今回も最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
参考文献
①Acta Odontol Scand 14 1-175, 1956,The dependence of the results of pulp therapy on certain factors-an analytical study based on radiographic and clinical follow-up examination, STRINDBERG LZ
②Hoboken:Blacwell 2007the essential endodontology 2nd ed.Orstavik D,Pitt Ford 2007
③ J Calif Dent Assoc. 2004 Jun;32(6):493-503.The success of endodontic therapy–healing and functionality,Shimon Friedman 1, Chaim Mor